トップメッセージ

環境、社会、すべてのステークホルダーに幸せやうれしさを提供できる会社へ

 新しくスタートした4カ年の中期事業計画KAYAKU Vision 2025KV25 )の初年度となる2022年度は、数年にわたる新型コロナウイルス感染症のパンデミックを経て新しい日常の模索が始まりながらも、ウクライナ情勢や米中対立の深刻化など地政学的リスクの高まりから、原料価格の高騰や為替の変動、半導体の供給不足などが発生し、日本化薬グループの業績にも大きく影響しました。いまだ続くコロナ禍による社会の変化とともに、想定外の事象は次々と発生しうるということを、改めて認識しなければならないと痛感しているところです。
 このような状況の中で2022年度の日本化薬グループの経営成績は、売上高は1,984億円となり、当初計画の1,968億円を上回るとともに過去最高額を更新することができました。また営業利益についても、当初は184億円と一度減益となる計画でしたが、実際は215億円と約5億円の増益を達成することができました。この結果は主に、上期に機能化学品事業およびセイフティシステムズ事業が非常に好調であったことによります。一方で、下期からは半導体関連市場と国内自動車生産の落ち込みがそれぞれの事業に影響し、2023年度にかけてもその傾向は続く見込みです。難しい局面を迎えた今こそ、経営陣一同気を引き締めて日本化薬グループの舵取りの責務を果たしていく所存です。

各事業の動向も含めて、今後どのような展望をお持ちでしょうか?

機能化学品事業

半導体関連製品の顧客在庫調整(機能性材料事業)や車載関連市況の落ち込み(ポラテクノ事業)からの回復によって成長の再加速を見込みますが、そのタイミングは2023年度の後半以降と考えています。中長期的に拡大する半導体・デジタル印刷・自動車市場の需要に応え続けられるように、半導体向け樹脂の生産や産業用インクジェットインクの生産に必要な増産投資、ヘッドアップディスプレイ向け偏光板など新製品の普及に努めていきます。

医薬事業

これまでと同様に毎年の薬価改定の影響を、ジェネリック医薬品やバイオシミラーの伸長によってカバーしていきます。さらに、KV25以降の中長期的な成長に向けて、導入や自社開発を含めた新薬創出のための仕込みを継続していきます。

セイフティシステムズ事業

グローバルの自動車生産が緩やかな回復傾向にある中、国内の需要回復時期が成長再開の鍵となります。海外は、中国・ASEAN諸国を中心とする自動車安全部品の市場拡大に対応するべく、増産体制の整備に努めます。

アグロ事業

医薬事業と同様に景気動向に左右されにくい業態の事業です。得意とする製剤技術を生かした開発を推進しながら、野菜・果樹分野の殺虫剤・土壌くん蒸剤について、引き続き堅実な成長を目指していきます。

全体的な方針

全社的に見れば、まさに今、市況の変化の影響を大きく受けている最中になります。決して楽観できる状況ではありませんが、しっかり現状を把握してコストダウン活動などの対応を全社一丸となって進め、KV25の目標である2025年度の売上高2,300億円、営業利益265億円に向けてやるべきことを粛々と進めていきます。また、ここしばらく売上高は着実な成長が見られるものの、営業利益率およびROEが低下傾向にあり、この改善を経営課題として認識していることは昨年も申し上げた通りです。中長期的なミッションとして利益率の向上に取り組み、各事業の成長によって目標とするROEの8%を追求していきます。

日本化薬グループ11年間の業績推移

2012 年度より会計年度の末日を5月31日から3月31日に変更したことに伴い、2012年度は当社および一部の連結子会社の連結対象期間が2012年6月1日から2013年3月31日までの10カ月間となっています。

持続的な成長のための全社重要課題である
M-CFTの活動についてお聞かせください。

M-CFT(マテリアリティ・
クロスファンクショナルチーム)

KV25では、各事業の計画を遂行するとともに、5つの全社重要課題に取り組んでいます。いずれもサステナブルな社会において持続的に成長していくために不可欠なテーマを選定しており、課題ごとに全社横断的に活動するM-CFTを組織して推進しています。2022年度の1年間の活動の中だけでも、各テーマにおいてさまざまな成果が生まれてきました。

新事業・新製品創出

アカデミアやスタートアップとの情報交換や投資を含む連携など、オープンイノベーションを志向した交流の機会を飛躍的に増やすことができました。当社グループの現在の技術と掛け合わせて、周辺の領域、新しい分野のアイデア創出に役立てていけるほか、研究・開発に関わる従業員が新しいものに日常的に触れて、意欲的に優れた知見や技術を吸収する気風を醸成できるものと期待しています。

気候変動対応

2030年までの具体的な温室効果ガス排出量削減目標への取り組みやScope3の排出量データの集計に加えて、昨年からはTCFDの提言に沿った情報の公表を開始しました。省エネ・省資源や太陽光発電の導入、ガスコージェネレーションシステムなど自社内での努力に加えて、サプライチェーンを含めた協力なども見据えながら、カーボンニュートラルに向けたロードマップを検討していきます。

DX

世の中の流れに乗り遅れないため、競争に負けないために企業にとって必須の取り組みがDXです。全社的なバリューチェーンの変革を見据えて、IT基盤の強化やサイバーセキュリティ、現場と連動した生産DXのほか、研究分野ではインフォマティクス環境の整備と活用が始まり、プロジェクトや研究員・技術者を中心とした取り組みが進んでいます。

仕事改革

資本効率性の高い経営を実現するために、全社ROICの目標を設定し、部門別管理や業績評価への活用を推進しています。また、あらゆる業務のムリ・ムダ・ムラを省き、原価低減に向けた意識改革を社内に浸透させる活動「A3活動(KAIZEN)」によって、生産性を高める企業風土の醸成に努めています。

働き方改革

「人」は企業にとって最も大切な要素であるという考えのもと、女性活躍やグローバル化を含むダイバーシティ、人材の丁寧な育成、そして心理的安全性の高い環境づくりによる生産性向上などに取り組んでいます。2022年度のトピックスとしては、タレントマネジメントシステムを導入し、従業員一人ひとりの顔が見える人事ツールとして運用を開始することができました。

これらM-CFTの活動によってKV25 最終年度までに一定の成果を上げながら、経済的価値および環境・社会的な価値の双方を継続的に創出するサステナブルな企業として、実力を底上げしていきます。

その他のマテリアリティの取り組みについてお聞かせください。

コーポレートガバナンスの強化

KV25のマテリアリティとして企業存続に関わる最重要課題のひとつに「コーポレートガバナンスの強化」を掲げて、社外取締役の皆さんとも意見交換を重ねながら取締役会の実効性の向上に取り組み続けてきました。特に2020年3月に設置された指名・報酬諮問委員会では、委員である社外取締役の皆さんを含めて緻密かつ熱心な議論が進み、コーポレートガバナンス・コードの要請にしっかり応えるガバナンス改革の加速につながった実感があります。2023年6月には日本化薬グループ初となる女性取締役として、赤松育子取締役を迎えました。会計士や社外役員としてのさまざまなご経験のある方ですので、当社グループの財務会計からサステナビリティ関係まで幅広くご相談しながら、コーポレートガバナンスの議論をさらに深めていきたいと思います。

人権の尊重

また、重要視したいマテリアリティのひとつに「人権の尊重」があります。事業をグローバルに展開する当社グループにとって、各所で発生する人権の課題を正しく認識し、適切に取り組むことは必要不可欠です。特に、原料調達において児童労働などの痛ましい人権問題を助長することなど、サステナブル経営を表明する企業として決してあってはならないことです。そこで、人権尊重等のコンプライアンスをこれまで以上に推進することを目的として「国連グローバル・コンパクト」に署名し、2021年9月には参加企業として登録されています。また、2022年4月には「日本化薬グループ人権方針」を制定し、人権に関わる国際規範を支持・尊重することを企業としてコミットしています。

地球環境や人権の問題に配慮しさまざまな社会課題に対処することは、社会の中で認められてはじめて存続が許される企業としての責務です。KV25マテリアリティのアクションプランに真摯に取り組みながらサステナブル経営を着実に推進し、持続可能な社会の実現に貢献していきます。

2023年6月の事業再編・経営執行体制の変更について、
意義などを含めてお聞かせください。

3事業領域の体制へ

外部環境に大きな変化が見られる今こそ変革が必要な時期であると判断し、これまでの4事業本部制から、「モビリティ&イメージング事業領域」「ファインケミカルズ事業領域」「ライフサイエンス事業領域」へとセグメントの再編成を実施しました。この再編によって成長分野と定めた各マーケットに対応する3つの事業領域が明確な体制となりました。また、研究企画・生産技術部門を束ねるテクノロジー統括を新設しています。テクノロジー統括は内包する部門の従来の役割を継承するとともに、重点マーケットのひとつである「環境エネルギー」分野について、当社グループの知見を結集して新事業・新製品創出を牽引するミッションを担います。

管掌役員制の導入

併せて、事業本部長制から管掌役員制としたことで、サブセグメントのトップである事業部長に大きく権限が委譲され、市場環境の変化に合わせたさらなる現場のスピードアップを図ります。また、事業領域のトップである管掌役員は、サブセグメント同士の人材・保有技術といった経営資源の効率的な共有・活用など、全社経営的な立場からの事業判断に集中することができるようになります。

当社グループとしては2007年にセイフティシステムズ事業本部が発足して以来の大きなセグメント変更になります。この体制変更によって、柔軟でスピード感があり、領域内のシナジーを発揮しやすい組織となることを大いに期待しています。

新しい体制で目指す日本化薬グループの
ありたい姿についてお聞かせください。

KAYAKU spiritと「幸せ」の好循環

当社は1916年、採鉱やダム・トンネルなどの社会インフラ整備に不可欠な火薬を製造する、日本初の産業用火薬メーカーとして誕生しました。人や社会の役に立つものを提供していこうという想いから始まった会社であり、その精神は「良心の結合」「不断の進歩」「最良の製品」といった創業の精神を表す社是から生まれた企業ビジョンKAYAKU spiritに込められています。

KAYAKU spiritを一言で表現するならば「利他の精神」です。この「利他の精神」、つまり世のため人のために役に立つことをさらに突き詰めていくと、最終的に自らも周りも皆「幸せになる」と思います。やりがいに満ちて充実した人生を送る幸せは人にとって大きな喜びです。日本化薬グループはこれを企業として体現し、KAYAKU spiritと人々の「幸せ」の好循環を築いていきたいと考えています。

KAYAKU spirit

最良の製品を不断の進歩と
良心の結合により
社会に提供し続けること

日本化薬グループのありたい姿

KAYAKU spirit のもと、存在感をもって、
永続的に環境、社会、
すべてのステークホルダーに
幸せや
うれしさを提供できる会社であること

心理的安全性の高い企業風土の醸成

私たちがKAYAKU spiritを体現する健全な企業であり続けるためには、社内外で良心的なコミュニケーションを実践することがとても重要です。まず、私たち経営層は現場主義を持って現場を誰よりも理解していなければなりません。トップダウンという一方通行のアクションだけではなく、現場の声をよく聞き、双方向の密接なコミュニケーションを実現することによって、健全で風通しの良い企業風土を醸成できると考えています。また、社内の各階層のリーダーは担当業務の知識に精通していることはもちろん、レギュレーションやコンプライアンスについても正しい意識を持つとともに、心理的安全性の高い職場づくりを心がけることも大切です。誰もが組織内で安心して意見を言える風土・文化を醸成し、従業員の生産性やモチベーションの向上につなげたいと思います。

「生き物のように」柔軟で
レジリエントな組織・人材集団へ

日本化薬グループは、生き物のように柔軟でレジリエントな組織・人材集団を目指したいと考えています。このたとえの元になる発想は、以前生物学者の福岡伸一先生と対談した際にご教授いただきました。

生き物に見習いたいところのひとつは、目に見えないミクロな活動の部分です。生き物の細胞は変化に対応できるよう、絶えず古いものが壊れる前から新しいものに自発的に入れ替わっています。企業も同様に、体制が変わらず長期間続いてしまうと組織・習慣の硬直化によって時代の流れについていけなくなると懸念されます。定期的に自ら柔軟性を取り戻す努力も必要と考えています。

当社グループも3事業領域への組織再編等によって企業としての、そして一人ひとりのマインドをリフレッシュし、新事業・新製品創出の成果へとつなげていきます。

また福岡先生によると、動物は脳がすべてを司る「中央集権型」ではなく、心臓・消化管・筋肉などが、それぞれ専門の役割を持って一体となって連携する「自律分散型」で活動しているそうです。企業にもさまざまな組織と所属する一人ひとりの考えがあります。同じ目的を共有してそれぞれが責任を持ち、「自律分散型」で一体となって行動することができれば、通常の何倍ものポテンシャルを発揮できます。

「自律分散型」組織は最近企業からも注目を浴びており、実際に転換を図っている会社もあります。管掌役員制への変更によって、事業や各部門が自律的に速く動けるようになることに加え、社内外の関係者・組織とも自律的かつ密に連携して、より良い価値を生み出すことを期待しています。

生物は個体が滅びても次世代に生命をつなぎ、環境適応や進化によって種をも変化させながら、38億年という気の遠くなるような長い期間をタフに生き延びてきました。私たち日本化薬グループも、競争の激化する厳しい事業環境において、生き物のような強さやしぶとさ、柔軟さを発揮して、永続的な発展を目指していきたいと思います。

青山学院大学教授 米国ロックフェラー大学客員教授 87万部のロングセラーとなった『生物と無生物のあいだ』、『動的平衡』シリーズなど、“ 生命とは何か”を動的平衡論から問い直した著作を数多く発表

◎自律分散のイメージ図:それぞれの役割を持って、自律的に活動しながら、全体としても一体感を持って連携する。

最後に、ステークホルダーの皆様に向けた
メッセージをお願いします。

お取引先の皆様へ

社会が高度に発展すればするほど、課題は複雑化していきます。日本化薬グループ単独で成し遂げられることなど僅かでしかありません。お取引先はサプライチェーンというよりはむしろサプライベースと呼ぶ方がふさわしいと思います。当社グループの考えをご理解いただきながら、ともに社会の課題を解決していくための大切なパートナーとして、密なコミュニケーションに努めていきます。

各事業の製品のお客様へ

お客様にとって当社グループは素材メーカー、部品メーカーという位置づけになります。素材はお客様に使っていただいて初めて製品として世の中の役に立つことができます。お客様との強固な信頼関係を築き、お互いになくてはならない存在になるべく、技術を研鑽し他にはない当社グループ独自の技術の創出に励んでいきます。今後とも、ご愛顧いただけますようお願い申し上げます。

日本化薬グループで働く
従業員の皆さんへ

社長として、従業員が良心を十分に発揮でき、幸せに働ける環境の整備を大切な使命のひとつと考えています。会社の発展と従業員一人ひとりの自己実現をしっかりとつなぎ、同じ目的に向かって皆が一体となり活動できるように、高いコンプライアンス意識を持って心理的安全性の確保された職場づくりに努め、日本化薬グループで働いて良かったと思える会社にしたいと考えています。

◎日本化薬から見た場合のステークホルダーの皆様との関連図

環境・社会の課題に向けて

地球温暖化などの気候変動をはじめ、ダイバーシティや人権の尊重など、近年のグローバルな環境・社会課題に積極的に対処していくことは、企業として当然の責務だと考えています。「最良の製品を不断の進歩と良心の結合により社会に提供し続ける」企業ビジョンKAYAKU spiritを実践し、存在感をもって、永続的に環境、社会、すべてのステークホルダーに幸せやうれしさを提供できる会社であることを目指していきます。

株主・投資家の皆様へ

株主・投資家の皆様との建設的な対話は、日本化薬グループにさまざまな気づきを与えてくださる貴重な機会と考えています。これからも経営の状況やサステナビリティに関わる取り組みなど、皆様との対話の対象になる情報の積極的な共有に努めていきます。また、決算説明会や投資家の皆様との懇談会、1on1ミーティングなどを通じてのご要望・ご意見を承りながら、IR活動の継続的な改善に取り組む所存です。引き続き一層のご支援を賜りますようお願い申し上げます。

株主・投資家情報

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