近年、気候変動に加え、自然資本や生物多様性の喪失による生態系サービスの劣化が、企業活動にも深刻な影響を及ぼす重要な課題として認識されています。企業には、事業活動における自然への依存と影響を把握し、適切に管理することが求められています。
2022年のCOP15で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」では、2050年までに「自然と共生する世界」の実現を目指す世界共通の行動目標が掲げられました。
日本化薬グループはこうした考えに賛同し、「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」のフレームワークに基づき、事業活動による自然への依存および影響をもたらしているかを特定・評価しています。また、これに伴うリスクと機会についても継続的に分析・検討しています。
今後も、持続可能な原材料調達や、水資源利用の効率化、化学物質使用量の削減などを通じ、自然資本の保全とレジリエンス向上に取り組み。自然と共生する持続可能な社会の実現を目指します。
日本化薬グループは、サステナビリティ課題のうちの環境側面として、気候変動への対応に加えて、自然資本の保全をマテリアリティと位置付けています。これらの課題は、気候変動対応と同様の推進・監督体制のもとで管理されています。
自然資本関連の取り組みは、代表取締役社長を議長とする「サステナブル経営会議」において、事業計画の審議や活動状況の総括・評価が行われます。審議結果は取締役会に報告され、取締役会の監視・監督を受ける体制となっています。
また、サステナブル経営会議の専門委員会のひとつである「環境・安全・品質経営推進委員会」(委員長:テクノロジー統括管掌役員)では、グループ横断的な視点から、自然資本や生物多様性に関する課題についてより深めた議論を行っています。
自然関連の取り組みを推進する上ではステークホルダーとの連携や操業地の地域社会への配慮を重要視しています。「日本化薬グループ人権方針」および「責任ある鉱物資源に関する方針」に基づき、お取引先への人権評価やサステナブル調達アンケートの実施などを通じて、環境破壊や人権侵害のリスク低減に努めています。
先住民族や地域社会を含む事業に関わるすべてのステークホルダーへの人権尊重体制の整備は、段階的に進めている状況であり、今後人権デュー・ディリジェンスの対象範囲拡大を目指してまいります。
(人権デュー・ディリジェンスの詳細はこちら、サステナブル調達の詳細はこちらをご覧ください)

日本化薬グループでは、複数の事業をグローバルに展開しており、各事業領域が抱える自然関連のリスクと機会を把握・評価することが重要と考えています。このため、TNFDフレームワークで推奨されているLEAPアプローチを活用し、自然資本と生物多様性に関するリスクと機会の評価を実施しました。
「モビリティ&イメージング事業領域」「ファインケミカルズ事業領域」「ライフサイエンス事業領域」の各事業領域について分析を行い、すべての主要事業における評価を完了しています。
対象範囲は、製品を製造する直接操業の工場拠点および主要一次サプライヤーの拠点とし、事業プロセス全体でのリスクと機会を特定しました。


自然との関係は拠点周辺の環境に大きく依存するため、「生物多様性にとって重要な地域」「生態系の十全性が高い地域」「水リスクが高い地域」の3観点で操業拠点周辺の環境を調査しました。調査にあたっては、国際的に広く活用されているIBAT(Integrated Biodiversity Assessment Tool)をはじめ、Global Forest Watch、GLOBIO Model、Aqueductといったツールを使用しております。
| 関連事業 | 拠点名 | 生物多様性にとり重要な地域 | 生態系の十全性が高い地域 | 物理的な水リスクが高い地域 |
|---|---|---|---|---|
| モビリティ&イメージング 事業領域 |
日本化薬株式会社 セイフティ本社工場 | 指定保護区に所在し 生物多様性における重要性は高い |
- | - |
| 化薬(湖州)安全器材有限公司(KSH) | - | - | 水ストレスリスクが高い地域 に所在している |
|
| カヤク セイフティシステムズ デ メキシコ, S.A. de C.V.(KSM) | - | - | 水ストレスリスクが高い地域 に所在している |
|
| モクステック,Inc. | - | - | 水ストレスリスクが高い地域 に所在している |
|
| 無錫宝来光学科技有限公司(WPLC) | - | - | 洪水リスクが高い地域 に所在している |
|
| レイスペック Ltd. | - | - | 水ストレスリスクが高い地域 に所在している |
|
| ファインケミカルズ 事業領域 |
日本化薬株式会社 厚狭工場 | - | - | 洪水リスクが高い地域 に所在している |
| 日本化薬株式会社 東京工場 | - | - | 洪水リスクが高い地域 に所在している |
|
| 化薬化工(無錫)有限公司(KCW) | - | - | 洪水リスクが高い地域 に所在している |
|
| 無錫先進化薬化工有限公司(WAC) | - | - | 洪水リスクが高い地域 に所在している |
|
| ライフサイエンス 事業領域 |
日本化薬株式会社 高崎工場 | 指定保護区に所在し 生物多様性における重要性は高い |
- | - |
| 日本化薬フードテクノ株式会社 | 指定保護区に所在し 生物多様性における重要性は高い |
- | - |
調査の結果、一部の操業拠点において指定保護区などの生物多様性上重要な地域や、水ストレス地域、洪水リスクが高い地域に該当することが判明しました。全拠点で法的基準を徹底して遵守することを基本としつつ、生物多様性にとって重要な地域に位置する拠点においては、周辺の環境や生態系へ配慮したさらなるリスク管理やモニタリングを進めることが重要と認識しています。
また、水ストレス地域に位置する拠点においては、水使用量自体は多くないものの水資源管理を強化し、洪水リスクが高い拠点についてはTCFDのシナリオ分析を踏まえ、今後の対策強化を検討します。
サプライヤーについては、モビリティ&イメージング事業領域のセイフティ事業およびポラテクノ事業、ファインケミカルズ事業領域、そしてライフサイエンス事業領域のアグロ事業および医薬事業における調達量上位20拠点を対象に同様の分析を実施し、環境リスクの高い地域に所在するお取引先には監査を通じて改善を促し、サプライチェーン全体での自然環境配慮を推進していきます。
日本化薬グループの事業活動が自然資本にどのように依存・影響しているかの評価にあたっては、ENCORE※を活用し、上流から自社での製造における各工程についての依存・影響をヒートマップ化しました。分析結果は以下の表の通りです。
| 活動 | 依存 | |||||||||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 供給サービス | 調節・維持サービス | |||||||||||||||||
| バリューチェーン | 事業 | 事業活動 | 遺伝子材料 | 水供給 | 地球全体の気候条件 | 降雨パターン調節 | 地域的な気候条件 | 大気の浄化 | 土壌と堆積物の保持 | 固形廃棄物の浄化 | 水質浄化 | 水流調節 | 洪水制御 | 暴風雨緩和 | 騒音低減 | その他 (自然によるろ過) |
光害等の 知覚的影響の緩和 |
|
| 直接操業 | モビリティ&イメージング事業領域 | セイフティ事業 | 自動車部品製造 | - | L | VL | VL | L | VL | M | L | M | M | M | M | VL | L | VL |
| ポラテクノ事業 | 光学・精密分析機器の製造 | - | M | VL | VL | L | VL | L | L | M | M | M | M | VL | L | VL | ||
| ファインケミカルズ事業領域 | 機能性材料事業 | 化学品製造 | - | M | VL | VL | L | VL | M | M | M | M | M | M | VL | L | VL | |
| 色素材料事業 | ||||||||||||||||||
| 触媒事業 | ||||||||||||||||||
| ライフサイエンス事業領域 | 医薬事業 | 医薬品・医療機器製造 | H | H | VL | - | L | VL | M | M | VH | H | M | M | VL | L | VL | |
| アグロ事業 | 農薬製造 | - | H | VL | M | L | VL | M | M | M | H | M | M | VL | L | VL | ||
| 活動 | 影響 | ||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| インプット | アウトプット | ||||||||||
| バリューチェーン | 事業 | 事業活動 | 土地利用面積 | 水利用 | GHG排出 | 大気汚染物質排出 | 土壌・水質 汚染物質排出 |
土壌・水質 汚染栄養塩排出 |
固形廃棄物 | 妨害 (騒音、光等) |
|
| 直接操業 | モビリティ&イメージング事業領域 | セイフティ事業 | 自動車部品製造 | L | L | VL | L | M | - | L | M |
| ポラテクノ事業 | 光学・精密分析機器の製造 | L | M | M | H | VH | - | M | M | ||
| ファインケミカルズ事業領域 | 機能性材料事業 | 化学品製造 | L | M | M | M | VH | - | M | VH | |
| 色素材料事業 | |||||||||||
| 触媒事業 | |||||||||||
| ライフサイエンス事業領域 | 医薬事業 | 医薬品・医療機器製造 | L | M | M | M | VH | M | M | VH | |
| アグロ事業 | 農薬製造 | L | M | M | M | VH | VH | M | VH | ||
評価結果として、全事業領域に共通して事業活動上の水使用は必須であり、事業活動の根幹となる水資源の確保という点において、自然環境からの「水供給」に依存していることを再確認しました。
また、その他の自然環境に及ぼす影響という観点からは、「GHG排出」や「大気・土壌・水質汚染物質」「固形廃棄物」の排出に加えて、「妨害(騒音、光等)」の影響が一定程度確認されており、これらの環境負荷の低減において、自然環境がもつ「固形廃棄物の浄化」や「水質浄化」機能、および自然の緩衝作用に支えられていることが示されました。さらに、生産拠点の周辺地域の自然環境がもつ「土壌と堆積物の保持」「水流調節」「洪水制御」「暴風雨緩和」といった基盤維持機能への依存度も一定程度あることが確認され、これらが各生産拠点における自然災害リスクの低減に寄与していることが分かりました。
すべての事業活動において生じるインプットおよびアウトプットについては、既に活動量を適切に把握するとともに、各操業地域の規制基準値以内に収まるよう、グループ共通の管理体制のもとで対策ならびにモニタリングを実施しています。
| 活動 | 依存 | ||||||||||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 供給サービス | 調節・維持サービス | ||||||||||||||||||
| バリューチェーン | 事業活動 | 生物資源供給 | 水供給 | 地球全体の気候条件 | 降雨パターン調節 | 地域的な気候条件 | 大気の浄化 | 土壌品質管理 | 土壌と堆積物の保持 | 固形廃棄物の浄化処理 | 水質浄化 | 水流調節 | 洪水制御 | 暴風雨緩和 | 騒音低減 | 生物的防除 | その他 (自然によるろ過) |
光害等の 知覚的影響の緩和 |
|
| 上流 | 原油/天然ガス資源 | 原油/天然ガス採掘 | - | M | H | - | L | VL | - | L | L | VL | M | H | L | VL | - | M | L |
| 精製石油製品製造 | - | L | VL | - | L | VL | - | M | L | H | M | M | M | VL | - | L | - | ||
| プラスチック製品製造 | - | L | VL | VL | L | VL | - | L | L | M | M | M | M | VL | - | L | VL | ||
| 鉱物資源 | 鉄/非鉄金属採掘 | VL | H | H | VH | L | VL | - | M | L | VH | H | H | M | VL | - | M | L | |
| 第一次鉄鋼/貴金属/非鉄金属製造 | - | H | VL | M | L | M | - | L | L | M | H | M | M | VL | - | - | VL | ||
| その他の金属製品製造業、金属加工サービス活動 | - | M | VL | - | L | - | - | L | M | M | M | M | M | VL | - | L | VL | ||
| 木材資源 | 伐採業 | VH | M | - | - | - | H | H | VH | M | - | M | M | L | VL | H | - | VL | |
| 紙及び紙製品製造業 | - | M | VL | M | L | VL | - | L | M | - | M | M | M | VL | VL | L | - | ||
| 活動 | 影響 | ||||||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| インプット | アウトプット | ||||||||||||||
| バリューチェーン | 事業活動 | 土地利用面積 | 淡水域利用 面積 |
海底利用面積 | 水利用 | 生物資源 利用 |
非生物資源 利用 |
GHG排出 | 大気汚染物質排出 | 土壌・水質 汚染物質排出 |
土壌・水質 汚染栄養塩排出 |
固形廃棄物 | 妨害 (騒音、光等) |
外来種の導入 | |
| 上流 | 原油/天然ガス資源 | 原油/天然ガス採掘 | L | VH | VH | M | - | - | H | H | VH | - | M | VH | L |
| 精製石油製品製造 | L | - | - | L | - | - | M | H | VH | - | M | VH | - | ||
| プラスチック製品製造 | L | - | - | L | - | - | M | M | VH | - | M | M | - | ||
| 鉱物資源 | 鉄/非鉄金属採掘 | M | VH | VH | M | - | H | M | H | VH | - | VH | VH | L | |
| 第一次鉄鋼/貴金属/非鉄金属製造 | L | - | - | M | - | - | H | H | VH | M | M | VH | - | ||
| その他の金属製品製造業、金属加工サービス活動 | L | - | - | M | - | - | L | L | VH | - | L | M | - | ||
| 木材資源 | 伐採業 | VH | M | - | M | VH | - | M | VH | M | - | L | H | M | |
| 紙及び紙製品製造業 | L | - | - | M | - | - | M | H | M | - | H | M | - | ||
原材料の調達から加工に至る上流工程においては、取り扱う資源(「原油・天然ガス」「鉱物」「木材」)ごとに、それぞれ特徴的な依存・影響関係が確認されました。
全体を通じて、最上流である「採掘・伐採段階」においては、安定した気候や豊かな水資源といった自然環境に深く依存しているほか、土地の利用に伴う周囲の生態系や自然環境への影響が大きい傾向がみられます。そこから精製や製造などの「加工段階」へ進むにつれて、プロセスにおける大気や土壌、水質への汚染物質の排出、および騒音や光をはじめとする周囲への環境負荷が高まるという、各資源共通の変化の傾向が示唆されています。
自然関連のリスク・機会の考察にあたっては、LocateおよびEvaluateフェーズで分析した要注意地域や依存・影響関係に加え、各操業拠点における環境データも考慮し、日本化薬グループの事業活動において特に重要度の高い依存・影響項目として、以下の5分野を特定しました。
| 特定した重要分野 | 1.水資源(取水) |
|---|---|
| 2.環境汚染(大気・水・土壌) | |
| 3.資源循環・廃棄物 | |
| 4.周辺環境への攪乱(騒音・光等) | |
| 5.自然の物理的調整機能(災害緩和等) |
特定した重要分野を起点とし、自然が事業に及ぼすリスク・機会と、事業が自然に及ぼすインパクトという両面からリスク・機会の特定・評価を行いました。
| カテゴリー | 関連重要分野 | 事業活動における主なリスク | 自然へのインパクト | リスク出現時期 | 関連性 | 主な対策 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| モビリティ&イメージング事業領域 | ファインケミカルズ事業領域 | ライフサイエンス事業領域 | ||||||
| 政策および法規制 | 2. 環境汚染 | 大気/水質/土壌汚染物質の排出規制強化の影響による対応コスト増加、操業の制限 | 大気/水質/土壌汚染物質の排出規制強化に伴う地域の環境改善 | 中期~長期 | 中 | 中 | 中 | ・各汚染物質排出状況については測定および開示 ・VOC排出の多い工場に対して燃焼設備の更新を実施し、排出量削減を確認済み ・排水処理施設設備を更新済み ・土壌へのPRTR対象物質の排出はなし |
| 顧客における農薬に関する規制強化により使用可能な成分や用途が制限され、製品設計の見直しや代替技術導入に伴うコスト増加 | 中期~長期 | - | - | 中 | ・販売段階において、残留性および生分解性の影響は分析済みかつ認可を取得 ・顧客に対して適切な使用方法についての説明 |
|||
| 3. 資源循環・廃棄物 | 廃棄物排出の規制強化の影響による対応コスト増加 | 廃棄物削減による有害物質の排出回避 | 中期~長期 | 中 | 中 | 中 | ・ゼロエミッション率1%以下という目標設定のもと進捗管理の実施 ・廃棄物量の多い拠点では売上原単位に対する廃棄量の観測実施 |
|
| 4. 周辺環境への攪乱 | 騒音や光害、臭気等に関する規制強化や地域合意の要請により、操業時間や稼働条件が制約され、稼働率の低下や対策コスト増加 | 周辺環境への攪乱(騒音・光等)の低減 | 中期~長期 | 小 | 中 | 小 | ・フローチャートを使用した適切な排気設備の選定 ・VOC関連の排気の加熱処理 |
|
| 市場 | 1. 水資源 2. 環境汚染 3. 資源循環・廃棄物 |
環境負荷の低い原料に需要が集中し、原料価格上昇 | バイオマス素材の過剰伐採や人為的開墾による既存の生態系喪失 | 中期~長期 | 大 | 大 | 大 | ・サステナブル調達の推進を目指した取引先とのエンゲージメント実施 |
| 評判/賠償責任 | 1. 水資源 2. 環境汚染 3. 資源循環・廃棄物 4. 周辺環境への攪乱 |
原料調達を含めた環境配慮に欠けた操業によるESG評価や評判の悪化に伴い、顧客からの取引先選定からの除外、ならびに自治体から訴訟の発生 | 環境配慮の重要性の高まりによる環境改善 | 中期~長期 | 小 | 小 | 中 | ・日本国内および諸外国で規制されている化学物質の使用はしていない ・グリーン調達規定に基づく調査を通じて対象化学物質が含まれた原料を調達しないよう対応 |
| 急性的な物理リスク | 5. 自然の物理的調整機能 | 台風や大雨等による拠点周辺の河川の氾濫や地滑り被害による操業の停止、修繕費用の発生 | 河川を含むその周辺地域で形成されていた生態系が崩れ、土地の劣化 | 短期~長期 | 小 | 中 | 小 | ・洪水シミュレーションの結果に基づき、財務影響の定量化と洪水対策の具体化 |
| 慢性的な物理リスク | 1. 水資源 | 水不足による操業の制限や停止 | 河川や地下水の不足により河川等の生態系バランスが崩れ、生物多様性の喪失 | 中期~長期 | 中 | 中 | 中 | ・生産に使用する水の節水対策の強化や、水のリユース、リサイクルの検討 ・売上あたりの取水量観測を通じた取水効率の把握 ・水ストレスリスクのある拠点での使用水量削減や貯水タンクシステム導入などの検討 |
| カテゴリー | 関連重要分野 | 事業活動における主な機会 | 自然へのインパクト | 機会創出時期 | 関連性 | 主な対策 | ||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| モビリティ&イメージング事業領域 | ファインケミカルズ事業領域 | ライフサイエンス事業領域 | ||||||
| 資源効率 | 1. 水資源 | 水資源の利用効率化による生産あたりの費用低減 | 河川や地下水の水資源が保全され、河川及び河川周辺の生態系の保全 | 短期~長期 | 小 | 中 | 小 | ・各工場にて水使用量削減対策を実施 ・具体的な目標の検討 |
| 3. 資源循環・廃棄物 | 廃棄物のリサイクルや再利用による費用低減 | 資源の持続可能な利用と廃棄による有害物質の排出回避 | 短期~長期 | 小 | 小 | 小 | ・使用量の多い溶剤の回収はおおよそ対応済み ・その他の溶剤の回収メリットの調査/検討 |
|
| 製品とサービス/市場 | 1. 水資源 2. 環境汚染 3. 資源循環・廃棄物 |
製造段階ならびに製品使用段階/廃棄段階も含めた、ライフサイクル全体での環境負荷低減に貢献する製品の需要拡大 | 環境負荷低減による環境改善 | 中期~長期 | 大 | 大 | 中 | ・石油由来の有機素材からバイオマス由来の素材への変更検討 ・軽量化による資源使用量低減ならびに使用段階における環境負荷低減を目指した製品開発 |
| 2. 環境汚染 | 化学農薬に対する規制強化や生物多様性保全への関心の高まりを背景に、低毒性農薬への需要が拡大し、環境配慮型製品の販売拡大による収益機会の創出 | 低毒性農薬や代替防除技術の導入により、生態系や水質への影響が低減 | 中期~長期 | - | - | 中 | ・受粉媒介者への影響が非常に小さい農薬の開発を通じた販売機会拡大 | |
| 評判 | 1〜5、すべて | 事業を通じた自然保全活動によるESG評価や評判向上に伴い、企業価値が向上 | 環境配慮活動の促進による環境改善 | 中期~長期 | 中 | 中 | 中 | ・環境情報の積極的開示 ・環境関連目標の検討 |
特定したリスク・機会については、TNFDのガイダンスに基づき、将来起こり得る世界観(シナリオ)における不確実性と影響度合いについて考察しました。
本分析では、サービスの劣化(物理リスク)」と「市場と非市場の調整力(移行リスク)」の2軸から4つのシナリオを設定しました。

このシナリオ設定に基づき、各拠点の自然との接点や環境データ、周辺地域や国の動向等踏まえ、各シナリオにおいて日本化薬グループに求められる戦略は以下のように整理できます。
環境規制への迅速な対応(製品開発・プロセス整備)と、ネイチャーポジティブ推進に伴う適切な情報開示が不可欠です。物理的リスクは限定的ですが、レピュテーション維持の観点から環境負荷低減は引き続き重要となります。
過去の取水制限を踏まえ、渇水対策の整備と水資源利用の高効率化が重要となります。自然の劣化に対する監視も強まるため、適切な情報開示を通じて外部影響に関する透明性を確保する必要があります。
渇水や激甚化する気象災害(洪水等)への備えなど、物理リスクへのレジリエンス向上が第一となります。短期的利益が優先される市場に対しては、リスク対策による操業安定化やコスト低減の側面を訴求し、対策と利益追求の両立による価値創造を目指します。
長期的にシナリオⅡ・Ⅲへ移行する可能性を内包するため、長期視点での備えが重要です。物理リスクの顕在化や自然保全への関心高まりに迅速に対応できるよう、自然関連情報の集約、開示準備、および環境負荷低減に資する製品開発を進める必要があります。
上記シナリオ分析の結果を踏まえ、日本化薬グループにとって優先度の高い自然関連リスク・機会を特定するため、評価対象を重要5分野(水資源、環境汚染、資源循環、周辺環境の攪乱、物理的調整機能)とし、リスクを以下の2軸・5段階で多面的に評価しています。
・深刻度:法令遵守の状況、データ把握の実態に加え、グローバル最高水準の環境管理が徹底できているかを指標として評価
・発生可能性:外部ツールのリスク評価や過去の顕在化実績、および自然資本の使用量・依存度の高さを基準に評価
「深刻度」と「発生可能性」の評価結果を掛け合わせることで、各拠点の潜在的なリスクの高さを構造的に整理しました。総合的にリスクが高いと判定された拠点を「拠点名×重要分野別」に抽出し、日本化薬グループの「マテリアルな地域」として定義しました。該当する拠点は以下の通りです。
| 関連事業 | 拠点名 | 分野 |
|---|---|---|
| ファインケミカルズ事業領域 | 福山工場 | 水資源 |
| 無錫先進化薬化工有限公司(WAC) |
今後は、特定されたマテリアルな地域(拠点)において、各分野のリスク特性(水ストレスや汚染物質・騒音等の管理状況)に応じた具体的な目標設定や負荷低減に向けた取り組みを推進してまいります。
(現在、日本化薬グループで実施している水資源利用に関する取り組みはこちらをご覧ください。)
今後は、この全社的な評価結果を踏まえた対応の検討・推進を進めてまいります。あわせて、未だ詳細な分析に至っていないバリューチェーン上流(原材料の調達段階)における採掘先の調査や分析の着手を視野に入れるとともに、将来的にはサプライヤーへの働きかけを強化し、サプライチェーン全体におけるデュー・ディリジェンス体制の構築を目指していきます。
日本化薬グループでは、マテリアリティとして「気候変動への対応」「自然資本の保全」を特定しており、全社的なレスポンシブル・ケア活動の重要な要素として積極的に取り組んでいます。
(サステナビリティ重要課題の特定方法はこちらをご覧ください。)
自然資本への依存と影響、ならびに自然関連のリスクと機会の特定・評価は、RC・技術統括部が中心となって実施しています。その際には、TNFDが推奨する分析手法であるLEAPアプローチに基づいた調査・分析結果を踏まえ、日本化薬グループにとって重要な優先課題を選定しています。
優先課題の選定にあたっては、「戦略」項目の「マテリアルな地域の特定」において前述した評価プロセスに基づき評価しています。
選定された優先課題は、レスポンシブル・ケア活動を統括する環境・安全・品質経営推進委員会に報告されます。報告内容には、現行の方針に基づく活動状況、課題や問題点、ならびに対応状況が含まれ、それらをもとに次年度の方針案について検討が行われ、サステナブル経営会議において年度方針が審議・決定されます。
策定された年度方針に基づき、各事業場およびグループ会社では、自然関連の取り組みを含むレスポンシブル・ケア活動を展開しています。その進捗状況は、定期的に実施される「中央環境安全衛生診断」を通じて、確認・監督しています。
(レスポンシブル・ケア方針や重点課題、体制、監査の詳細についてはこちらをご覧ください。)
日本化薬グループでは、マテリアリティとして「気候変動への対応」「自然資本の保全」を掲げており、その実現に向けて目標を定めています。
さらに、TNFDガイダンスにおいて開示が推奨・要求されている自然関連の指標のうち、関連性の高い指標についてはESGデータ集で開示しています。
(ESGデータ集はこちらをご覧ください。)
今後は、現時点で未開示となっている指標の開示を進めるとともに、LEAPアプローチなどを通じた分析結果に基づき、重要と判断された水資源関連指標を中心に目標を設定していく予定です。
これにより、事業活動における環境負荷の透明性の向上を図るとともに、グループ全体として環境負荷の継続的な低減を目指していきます。
高崎工場は、当時の東京第二陸軍造兵廠岩鼻火薬製造所の払い下げを受けて、1946年4月より黒色火薬の製造所として操業を開始し、その後、1971年8月に医薬製造業へと事業転換しました。操業開始時より「自然との共生」を目指し、ISO14001を2001年1月に取得しています。
「群馬県立公園群馬の森」や烏川の自然に囲まれた環境の中で、高崎工場では「生命と環境を守り続ける高崎工場」のスローガンのもと、環境方針に「一人ひとりが生命関連産業に従事していることを十分認識し行動するとともに、環境保全活動を進め、豊かな自然環境と調和のとれた工場運営に」と定めています。
工場は56万m2の広大な敷地があり、工場立地法の緑地として届け出ている11万m2はほぼ自然植生のまま残されており、高崎市街地には大変貴重な自然型樹群の中で当時の生態系が維持されていると考えられています。
敷地の東側・南側・北側の三方は、利根川水系の一級河川「烏川」、利根川水系烏川支流の一級河川「井野川」と、利根川水系広瀬川支流の一級河川「粕川」に囲まれています。北側は「群馬の森」に隣接しており、シカやタヌキ、カワセミなどが生息しているこの豊かな自然環境と生態系をこれからも守り続けます。
環境施設としては、緑地とともに場内に「クリーク」を設置しています。これは火薬製造所の時代に水力を火薬製造装置の動力源に用いていた施設の一部で、当時使用されていた外国製の縦軸水車も大切に保管しています。
クリークは場内の排水処理施設で活性汚泥処理された処理水を一時的にプールしています。クリークの水質が水質管理基準に適合していることを確認した後、河川に放流することで、環境汚染防止に万全を期しています。
このクリークは居住区域から離れた自然型樹群の中にあり、河川にも近く動物にとって安全で、森や川で餌が獲れることから、毎年「渡り鳥」が飛来するオアシスになっています。毎年の渡り鳥の飛来と北方への旅立ちは従業員にとっても楽しみな季節のイベントです。

