基盤技術やオープンイノベーションを活用して、持続可能な社会に貢献するターゲット4分野の研究・開発に注力しています。
事業領域の得意分野、周辺分野である「モビリティ」「エレクトロニクス」「ライフサイエンス」とともに、カーボンニュートラルに貢献する「環境エネルギー」分野では、産学連携やスタートアップ企業との協業を積極的に活用して、全社研究組織である新事業開発センターを中心に研究開発を進めています。
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| モビリティ | 環境エネルギー | エレクトロニクス | ライフサイエンス |
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※ AZUL Energy 株式会社との業務提携の取り組み |
その他、ファインケミカルズ事業領域の事業と協働の企画・マーケティングの活動を継続 |
その他、医薬事業・アグロ事業と協働の企画・マーケティングの活動を継続 |
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カーボンニュートラル社会の実現に向けて、再生可能エネルギーを用い、二酸化炭素を排出しない水の電気分解で製造した「グリーン水素」が注目されています。国際エネルギー機関によれば、世界の水素市場は2030年までに年間数兆円規模に成長すると予測され、日本政府もカーボンニュートラル達成に向けて、水素を重要なエネルギーキャリアと位置づけています。
現在主流のプロトン交換膜を使う水電解では、プラチナなどのレアメタルを使う触媒が必要であり、コスト面の課題があります。近年注目されるアニオン交換膜を用いた水電解では、ニッケルなどの安価な金属触媒を使い、かつ効率的な生産が可能であり、次世代の水素製造技術として期待されています。
しかし、アニオン交換膜は高温かつアルカリ性の条件下で長期間使用されるため、その耐久性が実用化の課題となっていました。東京科学大学では、劣化メカニズムの解明に基づく材料設計に取り組み、長期耐久性に優れるアニオン交換膜の開発に成功しました。日本化薬は、機能性材料で培った高分子材料の分子設計・合成技術と、ポラテクノ事業の精密フィルム加工技術を活かし、プロセス確立・量産化実現の面から東京科学大学と連携して、アニオン交換膜の事業化に取り組んでいます。
2030年以降に本格的な市場拡大が見込まれる中、2025年より国内メーカー向けに実証用開発品サンプルの提供を開始する予定です。この取り組みにより、安価なグリーン水素の製造を実現し、水素社会の実現と国内産業の競争力強化に貢献していきます。
テクノロジー統括 研究企画部
新事業開発センター
栁橋 直毅
アニオン交換膜型水電解の模式図
Roll to Roll 製造したアニオン交換膜
近年、スマートフォンやモバイルバッテリー、電動アシスト自転車などに搭載されるリチウムイオン電池による火災が急増しています。東京消防庁の統計によると、2019年から2023年の5年間でリチウムイオン電池が原因とされる火災は約300件発生しており、その増加傾向は深刻な社会問題となっています。
リチウムイオン電池の火災は、可燃性ガスが内部から発生することに加えて、800℃以上の高温燃焼であること、消火の後で再燃焼のリスクがあること等から、酸素の遮断や、放水といった一般的な消火方法では対応が困難です。当社では、火薬等の反応性物質の取り扱いや、ガス発生剤を製造する押し出し加工技術などのセイフティシステムズ事業の知見を応用し、画期的な消火部材を開発しました。これは、高熱に自動的に反応し、効果的な消火成分を瞬時に放出するリチウムイオン電池専用の消火部材です。
放出するカリウムラジカルの負触媒効果により、リチウムイオン電池の火炎を迅速に消火でき、他の電池セルや周辺機器への類焼を効果的に防止することで、被害を最小限に抑えられます。
EVの本格普及とリチウムイオン電池の回収義務化が進む中、安全な取り扱いと処理技術はますます重要になります。当社の消火部材技術は、リチウムイオン電池の安全性を飛躍的に向上させ、これらの社会的要請に応える重要なソリューションになると考えています。
テクノロジー統括 研究企画部
新事業開発センター
稲葉 健一
火炎へ当社の開発した消火シートを近づけることで、カリウムラジカルの負触媒効果によって迅速な消化が可能
2050年カーボンニュートラルの実現に向け、世界は今、化石資源への依存からの脱却という大きな課題に直面しています。この課題の解決に向けて、当社はiPEACE223社の持つ独自のゼオライト触媒技術に大きな可能性を見出しました。2024年度に当社は同社への出資を行うとともに、共同研究開発を本格化させています。
iPEACE223社は、燃料添加剤として世界的に普及しているバイオエタノールを原料に、プラスチックや化学繊維などの原料となるプロピレンを高効率かつ低コストで製造する、画期的な触媒とプロセスを開発しています。この「グリーンプロピレン」は、燃料や、当社事業とも関わるアクリル酸・メタクリル酸の原料として、サプライチェーン全体の脱炭素化に大きく貢献する可能性を秘めています。
iPEACE223社技術の最大の特長は、独自のゼオライト触媒により、エチレンからプロピレンをワンステップで、かつ非常に高い効率で生成できる点です。従来の多段階製法における変換効率の課題を解決すると同時に、排出するエネルギー換算CO2排出量を石油由来の工程に比べて3 分の1 程度に抑えることができます。
iPEACE223社の革新的な「触媒・プラント設計技術」と、日本化薬の「触媒開発・工業化の知見」を融合させることで、この画期的な技術の実用化を進め、2030年頃の触媒の上市、そして安定供給を目標に開発を加速させています。これからも当社は、暮らしのあらゆる場面で「グリーン」な材料の選択肢を提供する研究・開発の推進に努めていきます。
ファインケミカルズ研究所
触媒グループ
五味 杏介(左)
テクノロジー統括 研究企画部
新事業開発センター 厚狭工場駐在
有福 達治(中)
ファインケミカルズ研究所
触媒グループ
保田 将吾(右)
iPEACE223社ウェブサイト(https://ipeace223.com)より引用