NCC-ST-439(腫瘍マーカー) Q&A

NCC-ST-439とは何ですか(名称の由来)?

NCC-ST-439は、モノクローナル抗体の名称で腫瘍マーカーの一つです。抗体は、1983年に国立がんセンター(National Cancer Center)研究所 広橋説雄、下里幸雄、慶応大外科 渡邊昌彦らにより開発されました。NCC-ST-439は、ヌードマウスにヒト胃低分化腺癌株ST-4を免疫して得られた39番目の抗体の意味で、イムノグロブリンのクラスはIgMκです1),2)。NCC-ST-439抗体の認識する抗原が腫瘍マーカーとして使われています。

NCC-ST-439抗体が認識する抗原は?

NCC-ST-439抗体の認識する抗原は、分子量100万以上のムチン様高分子糖蛋白質で抗原決定基はII型糖鎖と推定されていましたが、1998年に抗原決定基の構造が明らかになりました3)。抗原構造は下図のとおりですが、II型糖鎖である通常のシアリルLexとは異なり、GlcNAcβ1→6GalNAcα構造に担われたシアリルLexであることが判明しました。

NCC-ST-439抗体が認識する抗原の体内分布は?

各種癌組織の抗原分布は、免疫組織化学的反応性でみた場合以下の結果となっています2)

癌の臓器 陽性例数/全例数 陽性率 (%)
62/102 60.7
大腸 79/80 98.8
膵臓 28/28 100
肺(腺癌) 16/17 94.1
肺(扁平上皮癌) 14/19 73.7
肺(大細胞癌) 10/18 55.6
肺(小細胞癌) 4/19 21.1
乳房 22/27 81.5

一方、正常組織上の抗原分布は、免疫組織化学的反応性でみた場合、以下の組織に反応性がみられました。
気管(粘液腺)、唾液腺(粘液腺)、食道(扁平上皮)、肝臓(肝細胞)、膵臓(島細胞)および腎臓(近位尿細管)

NCC-ST-439の基準値は?

10~60歳代各40~50例合計583例の健常者血清を測定した結果、NCC-ST-439値の平均値±2SDは、女性10~40歳代が6.1~6.9U/mL、女性50歳代以上及び男性では3.4~4.3U/mLとなり、40歳代以下の女性が高い値を示しました4)
以上の結果から、参考カットオフ値(基準値)は、
   女性49歳以下 7.0U/mL
   女性50歳以上及び男性 4.5U/mL
と設定しました。

NCC-ST-439値に日内変動はありますか?

NCC-ST-439には日内変動は殆どありません5)

NCC-ST-439抗体の腫瘍マーカーとしての臨床的意義及び特徴は?

癌患者血清中のNCC-ST-439抗原測定を行い、参考基準値により陽性率(有病正診率)を調べたところ膵癌58.9%、胆道癌53.1%、乳癌41.9%、直腸結腸癌36.6%、癌全体で35.3%でした。非癌患者の偽陽性率は、健常者5.0%、膵の良性疾患14.0%、肝の良性疾患9.7%、胆道の良性疾患8.0%、良性疾患全体で8.3%と低率であり、特異性の高い腫瘍マーカーといえます4)

また、再発乳癌6)、再発大腸癌7)における感度が高いことから、癌術後再発のモニタリングに用いられます。

NCC-ST-439抗体が使用される癌種は?

NCC-ST-439は主として乳癌及び大腸癌の再発モニタリングに用いられています。

主要な使用領域での代表的な腫瘍マーカーの陽性率は以下の通りです。

【乳癌】6)

NCC-ST-439 CEA CA15-3
原発乳癌 34.6%(28/81) 17.3%(14/81) 16.0%(13/81)
再発乳癌 53.1%(26/49) 46.9%(23/49) 42.9%(21/49)

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【大腸癌】7)

NCC-ST-439 CEA CA19-9
原発大腸癌 28.9%(26/90) 26.7%(24/90) 26.7%(24/90)
再発大腸癌 65.5%(19/29) 55.2%(16/29) 48.3%(14/29)

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【肺癌】8)

NCC-ST-439 CEA SLX
原発肺癌 37.5(21/56) 33.9%(19/56) 16.1%(9/56)
肺腺癌 45.0(9/20) 45.0(9/20) 30.0%(6/20)

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【膵癌】9)

NCC-ST-439 CEA CA19-9
原発/再発分類なし 58.3(7/12) 41.7%(5/12) 58.3(7/12)

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NCC-ST-439の乳癌領域の原発・再発例における陽性率は?

乳癌の腫瘍マーカーとしてはCA15-3、CEA及びNCC-ST-439が主に再発のモニターとして臨床応用されています。NCC-ST-439の原発乳癌及び再発乳癌の陽性率(感度)を検討したいくつかの報告があります(下図)10)。NCC-ST-439は、他の腫瘍マーカーと比べ原発乳癌での感度はやや高め、再発乳癌での感度はほぼ同等でありますが、術後非再発乳癌での特異性がやや低めです。

【NCC-ST-439の感度と特異度】10)

報告者 感度 特異度
原発乳癌 再発例 良性乳腺疾患 乳癌術後・非再発例
高塚ら (1992) 34.6%(28/81) 53.1%(26/49) 84.5%(397/470)
児玉 (1992) 26.0%(13/50) 61.3%(19/31) 77.2%(71/92)
高橋ら (1991) 46.9%(38/81)
鈴木ら (1990) 22.8%(18/79) 50.0%(13/26)
宮原ら (1990) 21.1%(4/19) 42.9%(12/28) 100%(8/8)
関原ら (1990) 21.6%(6/28) 60.0%(12/20) 100%(7/7) 93.1%(67/72)
炭山ら (1990) 26.1%(6/23) 62.5%(5/8) 100%(16/16) 92.3%(60/65)
徳田ら (1989) 77.8%(7/9) 63.0%(17/27) 93.9%(28/30) 82.8%(82/99)
大倉ら (1987) 41.9%(36/86) 55.2%(16/29) 93.9%(46/49)

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乳癌の転移部位別のNCC-ST-439陽性率は?

乳がんの転移部位別に腫瘍マーカーの陽性率を検討した報告があります(下図)10)

転移部位 NCC-ST-439 CA15-3 CEA TPA
軟部組織 (n=18) 44.4% 22.2% 50.0% 23.5%
骨 (n=23) 60.9% 47.8% 60.9% 42.9%
内臓 (n=14) 50.0% 78.6% 35.7% 71.4%

乳癌においてNCC-ST-439と他の腫瘍マーカーと組み合わせる場合はどのようなマーカーとの組み合わせで用いられますか?

再発乳癌の腫瘍マーカー単独の陽性率は50%前後ですが、お互いに相関性の乏しいマーカーの組み合わせによるCombination Assayにより再発検出感度の向上が望めます。NCC-ST-439を中心に選択した場合、2マーカーではNCC-ST-439+CA15-3もしくはNCC-ST-439+CEAの組み合わせ、3マーカーの組み合わせではNCC-ST-439+CA15-3+CEAの組み合わせがあります。

乳癌以外の癌でNCC-ST-439とコンビネーションを組む場合はどのようなマーカーの組み合わせで用いられますか?

大腸癌(直腸結腸癌)ではNCC-ST-439+CEAの組み合わせが診断効率が高いという報告があります11)

NCC-ST-439抗体は再発乳癌早期発見のマーカーとして使用できますか?

腫瘍マーカーが乳癌の再発・転移のどの時点で陽性を示すかを検討した報告によれば、再発確認前の陽性率は、NCC-ST-439:57.1~31.6%、CA15-3:33.3~7.1%、CEA:28.6~14.3%とマーカーによる陽性率の変動はありますが12)~14)、NCC-ST-439は比較的鋭敏であり、アーリーアラームとしての可能性を有していると考えられます。

NCC-ST-439は治療効果のモニターとして使用できますか?

腫瘍マーカーを治療効果判定としてのモニタリングマーカーとして用いる場合、治療前後における測定値の変動を治療効果別に調べる必要があります。
NCC-ST-439でも検討されており、手術後の7/8例に測定値の下降を認めた15)、また化学療法の奏効例で測定値の下降を認めた14), 16)、などの報告があります。
経過観察には治療前後で変動の認められたマーカーを組み合わせて併用するコンビネーションアッセイが薦められます。

乳癌術後経過観察において腫瘍マーカーはどのような頻度で測定しますか?

乳癌術後の腫瘍マーカーの測定間隔として、アンケートを取った報告があります17)。その報告によれば、術後3年までは3ヶ月間隔、4~5年で6ヶ月間隔、6~10年では6~12ヶ月間隔で検査されている施設が多かったとの報告があります。また他のアンケート調査においても、早期発見にマーカーを利用する場合67.4%の医師が3ヶ月間隔で検査するのが良いと報告されています18)

癌以外でNCC-ST-439が陽性になる場合はありますか?

癌以外で陽性を示す場合に以下の要因などが考えられますが、まだ不明な点が多いのも現状です。
・膵臓、肝臓および胆道系の良性疾患で8~14%程度の偽陽性があります4)
・妊娠では、妊娠初期ほど高値を示す傾向があります5)
・良性卵巣腫瘍で異常高値を示した報告が有ります19)
・乳癌術後補助療法でホルモン剤を処方した場合の16.2%の例に軽度の上昇が見られるとの報告が有ります20)
・乳癌術後非再発例の10-15%に軽度の上昇が見られます(今までの報告から)。
・血清に唾液が混入した場合。
・血清中に異好抗体が含まれる場合。

出典

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  4. 大倉久直, 他. 癌と化学療法. 14(6): 1901-1906, 1987
  5. 吉岡久, 他. 臨床病理. 35(11): 1233-1238, 1987
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  7. 山口明夫, 他. 癌と化学療法. 16(8): 2645-2650, 1989
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(2025年5月更新)