ラナマンモカード CEA®(乳頭分泌液中CEA測定キット) Q&A

乳頭異常分泌とはなんですか?

通常の乳頭分泌は妊娠後期や産褥期に見られる分泌です。この生理的な乳頭分泌は両側性で、多数の乳管より分泌されます。また、自然に分泌されることは少なく吸引あるいは圧迫により分泌されます。

一方、病的な乳頭分泌は乳頭異常分泌と呼ばれ日常診療ではしばしば遭遇する症候です。乳頭異常分泌には乳腺の器質的変化を伴うものと伴わない機能的なものに大別されます。乳管上皮の病的状態に由来する乳頭分泌は、多くは片側性で乳頭に開口する一本の乳管より分泌されることが多く、血液を含むいわゆる血性乳頭異常分泌です。乳癌でもいまだ腫瘍を触知しない時期では、乳頭異常分泌が唯一の手がかりとなることがあるので重要な症状です1)

乳頭異常分泌の頻度は?

乳頭異常分泌の頻度は、乳腺外来受診者の4~11%1) - 6)と報告されています。また全乳癌における乳頭異常分泌の発現頻度は4~8%1), 2), 4) - 6)との報告が多くみられます。

乳頭異常分泌の原因は?

乳頭異常分泌の原因としては乳腺の器質的変化の有無により2つに大別されます4)。乳腺の器質的変化を伴う場合には、乳癌との鑑別が重要になります。

表 乳頭異常分泌の原因4)

1.乳腺の器質的変化を伴うもの

(1)乳腺症
(2)乳管内乳頭腫
(3)慢性乳腺炎(乳管拡張症)
(4)乳癌
(5)その他の乳腺疾患

2.乳腺の器質的変化を伴わないもの

(1)内分泌環境の異常またはアンバランスによるもの
脳下垂体腫瘍, 松果体腫瘍, Cushing氏病, 甲状腺機能亢進症及び低下症, 卵巣腫瘍, 不妊手術後, 無月経-乳汁分泌症候群(Chiari-Frommel症候群, Forbes-Albright症候群, Argonz del Castillo症候群), 内分泌関連臓器に対する手術後, 新生児の奇乳や血性分泌, 処女の乳汁分泌や血性分泌, 代謝性月経など.

(2)薬剤によるもの
Phenolthiazine誘導体, Reserpine製剤, 中枢神経作用性消化管機能調整剤, 経口避妊薬, Morphine製剤など.

(3)精神的損傷、精神疾患、外傷、乳腺以外の慢性疾患によるもの
強姦, 想像妊娠, 内因性精神病, 重篤な軟部組織や脳の損傷, 結核, 出血傾向など.

(4)原因不明のもの

乳頭異常分泌を伴う各乳腺疾患の頻度は?

乳頭異常分泌の原因となる主な乳腺疾患は乳腺症、乳管内乳頭腫、乳癌です。これまでの報告1), 3), 4), 7)によると、各疾患の頻度は乳腺症 17~31%、乳管内乳頭腫19~45%、乳癌28~43%とばらつきがみられ、生検適応の基準や病理組織診断の基準の差異によるものと思われます。また乳頭腫では70~95%以上の高頻度で異常分泌がみられる8), 9)という報告もあります。

乳頭異常分泌を伴う乳癌の特徴は?

乳頭異常分泌を伴う乳癌の組織型は乳管内進展を発育の主体とする乳癌が多く、組織型分布でみると、管内進展型の非浸潤性乳管癌と乳頭腺管癌が大半であり、乳頭腺管癌の中では微小浸潤しかみられない乳癌の割合も多いことが報告されています4), 6)。リンパ節転移については、リンパ節転移のないn0症例が8割以上を占め、乳頭異常分泌を伴う乳癌では予後の良好な乳癌が多いといわれています4), 6)

乳頭異常分泌と年齢との関係は?

乳頭異常分泌は年齢別には30~40歳代が最も多く、次いで50歳代の順に多く、60歳以上は症例数、頻度ともに少ないと報告されています1) - 4)

乳頭異常分泌症例における乳癌の頻度は加齢とともに増加を示し2), 9)、欧米では50歳をこえると乳癌の頻度が増し、60歳以上では特に乳癌が高率になるといわれています10)。従って、リスクの高い年齢での乳頭異常分泌例の診断には細心の注意が必要です。

乳頭異常分泌の部位は?

乳頭異常分泌の発症部位を両側性及び1側性別にみると、片側性が約半数以上を占め2)、特に60歳以上では片側性が多くみられる2)ことが報告されています。乳頭異常分泌が乳腺の器質的変化によるものかどうかを鑑別する上では、原則的に分泌が片側性で、単孔性であるかどうかが重要です4)

乳頭異常分泌と"しこり"との関係は?

乳頭異常分泌例のうち、しこりを触知しない症例(無腫瘤例)は6~8割3) - 7)で、しこりを触知する症例(有腫瘤例)よりもその比率が高いことがこれまでに報告されています。

乳頭異常分泌液の肉眼性状は?

乳頭異常分泌液の肉眼性状としては、以下のようなものがみられます。

肉眼的性状 頻度 乳腺疾患との関連
血 性
血性
若年者から高齢者まで幅広くみられるが、年齢が高くなるにつれて頻度が高くなり、60歳以上では高率にみられる。血性分泌が全体の半数近くを占めるという報告が多い。 乳癌、乳管内乳頭腫、乳腺症の頻度が高率。
漿液性 (淡黄色)
漿液性(淡黄色)
若年者から高齢者まで幅広くみられる。 ときに乳癌が発見されることがある。
乳汁様
乳汁様
通常は出産可能年齢にみられ、加齢と共に頻度は低下する。また60歳以上での頻度は低い。 乳癌の頻度は低い。
水 様(透明)
水様(透明)
若年者から高齢者まで幅広くみられるが頻度は低い。 乳癌の頻度は比較的高率。
膿 性 感染によって起きる場合も多い。ただ頻度は低い。
一般には出産可能年齢に多くみられる。
まれに乳癌の場合もある。

横スクロールできます)

血性分泌は最も乳癌のリスクが高く、14~56%の高頻度で乳癌が存在することが報告2)されています。

乳頭異常分泌の診断方法は?

乳頭異常分泌の診断方法は、問診、視・触診から始まり、マンモグラフィや超音波検査に加えて、分泌液及び分泌乳管に対する診断が加わります(表)7)

表:乳頭異常分泌の診断方法

1.問診、視・触診
2.マンモグラフィ、超音波検査
3.分泌液を用いた診断 (1) 分泌液の性状(潜血反応)
(2) 分泌液の細胞診
(3) 分泌液中のCEA測定
4.乳管を用いた診断 (1) 乳管造影
(2) 乳管内視鏡
5.生検(microdochectomy)
3-(1)

分泌液の性状(潜血反応)

分泌液の性状で重要なのは分泌液中に血液が混じっているか否かなので、潜血反応の試験を行います。潜血反応が陰性の場合には乳癌の可能性が低いと考えられるので、画像診断で異常所見がなければ経過観察とします。

3-(2)

分泌液の細胞診

乳頭分泌液の細胞診には直接塗抹法、乳管洗浄や蓄乳法がありますが、一般的に採取細胞量が少ないことと、細胞変性が強いことなどによりその陽性率は30~60%とあまり高くありません。

3-(3)

分泌液中のCEA測定

分泌液中CEAの測定は、特に非触知(無腫瘤性)乳癌の診断に有用であり、測定法に関らずT0乳癌の診断能は感度、特異度ともに70~80%と報告されています11)

4-(1)

乳管造影

分泌乳管内に造影剤を注入後、乳房撮影を行い、造影された乳管の像から病変の部位を知り、原因疾患を診断します。一般には本検査での質的診断は難しいといわれていますが、非触知乳癌の生検の際には必要な術前検査です。

4-(2)

乳管内視鏡

乳管内視鏡は乳管にファイバースコープを挿入し、末梢の乳管まで直接観察が可能です。また検体採取(乳管内生検)も可能です。

5

生検(乳管区域切除)

分泌乳管内に色素を注入し、染色された乳管・腺葉を切除します。切除標本は病理組織学的検査を行います。

乳頭異常分泌液中のCEA測定の経緯は?

1985年より稲治らは、乳癌組織についてCEAの免疫組織学的検討の結果(CEA陽性例は一般乳癌の50%近くに存在し、良性疾患には陽性例が認められない)に加えて、乳癌で産生されたCEAの大部分が血中ではなく乳管内に放出されるという特性に着目し、乳頭分泌液を検体としたCEAの測定の検討を行いました。その結果、腫瘤がある乳癌ばかりではなく、無腫瘤性(非触知)乳癌においてその陽性率が高く、無腫瘤性乳癌の診断に有用であることが報告されました12), 13)。その後、乳頭分泌液中CEA測定用の簡易キットの開発が考案され14), 15)広く測定されるようになりました。

乳頭分泌液中のCEA測定の意義は?

乳癌細胞で産生されたCEAの大部分が乳管内に放出されるため、乳頭分泌液中CEA測定は、乳癌と他の乳管内増殖性疾患との鑑別診断に有用です16)。特に乳癌の中でも非触知(無腫瘤性)乳癌における陽性率が高く、早期乳癌の診断に有用です15), 18)。また、分泌液中の細胞診との組み合わせにより、より高い正診率が得られます17), 18)。さらに乳頭分泌液中CEAの測定は、検体採取が容易で、被検者に対して侵襲がないことも利点としてあげられます。

乳頭分泌液中CEA測定の臨床成績は?

これまでの乳頭分泌液中CEA測定法一般の非触知乳癌の診断能は感度、特異度ともに70~80%程度と報告されています(表1)11)。イムノクロマトグラフィー法を用いた「ラナマンモカードCEA」については、感度 68%、特異度 96%と報告されています19)

表1:乳頭分泌液中CEAによる非触知乳癌診断能

報告者 測定法 基準値
(ng/mL)
症例数 感度
(%)
特異度
(%)
稲治 1987 酵素免疫法 100 30 86 89
1989 酵素免疫法(簡易法) 400 125 73 91
1992 酵素免疫法(簡易法) 400 54 76 79
西口 1992 酵素免疫法(簡易法) 400 16 50 75
佐々木 1993 酵素免疫法(簡易法) 400 12 100 55
濱田 1994 酵素免疫法 400 25 67 95
弥生 1994 酵素免疫法 600 60 77 100
神崎 1994 酵素免疫法
ラテックス比濁法
200 76 71 92
西19) 2003 イムノクロマトグラフィー法 400 47 68 96

横スクロールできます)

いずれも組織診の得られた症例のみ

乳頭異常分泌症例に対する診断における乳頭分泌液中CEA測定の位置付けは?

乳頭分泌液中のCEAの測定は、以下の図のように乳頭異常分泌症例の診断手順の中で用いられています7)

図: 無腫瘤性乳頭異常分泌診断のフローチャート

図: 無腫瘤性乳頭異常分泌診断のフローチャート

乳頭分泌液中のCEA値と組織型には関連がありますか?

乳頭分泌液中CEAと組織型(非浸潤性乳管癌と浸潤癌)には関連がみられないという報告17)もありますが、浸潤の傾向が強い方がCEAの値が高い傾向にあるとの報告18)もあります。

乳頭分泌液中CEA測定に伴う偽陽性、偽陰性はありますか?

偽陽性の要因として以下のようなことが考えられます11), 20)

  1. 分泌液中のCEAが高値を示す良性疾患(ごく少数の乳腺症や乳管内乳頭腫)や境界病変の存在。
  2. ヒト乳汁中には高いCEA活性を示すものがある(但し、分泌液が乳汁様で乳癌であることはほとんどないので高プロラクチン血症等を疑うべきである。)。
  3. 検体の性状などで測定に影響を及ぼす場合。
    酵素免疫法(簡便法)では、検体の分泌液が膿性、または粘性の場合、液の粘性のために検体の非特異吸着が起こり、偽陽性を示す場合があるといわれている。

一方、偽陰性の要因としては、腫瘍がCEAを産生しないCEA非産生乳癌の場合が考えられます21)

乳腺穿刺液や嚢胞内液中のCEA測定には意義がありますか?

乳腺穿刺液中のCEAについては基準値を600ng/mLとした場合の乳癌の診断感度は83%、特異度は100%であり、陽性例ではT0乳癌の発見される確率が高かったことが報告がされています22)。また、嚢胞内液中のCEAについては、100ng/mLを基準値として感度70%、特異度97%、正診率95%であり、嚢胞内液中CEA測定は嚢胞性病変の良悪の鑑別に有用であることが報告されています23)

出典

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  3. 弥生恵司, 他. 乳癌の臨床. 3(1):141-146, 1988
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  6. 松永忠東, 他. 日本乳癌検診学会誌. 11(3): 281-288, 2002
  7. 弥生恵司, 他. 日本臨床. 58(増刊): 38-42, 2000
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  12. 稲治英生, 他. 医学のあゆみ. 134(8): 575-576, 1985
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  14. 森武貞, 他. 乳癌の臨床. 4(1): 99-103, 1989
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  17. 神崎正夫, 他. 乳癌の臨床. 9(4): 610-616, 1994
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  20. 八木橋厚仁, 他. 日本臨床. 57(増刊) : 450-451, 1999
  21. 弥生恵司. 乳癌の臨床. 7(3): 366-374, 1992
  22. 清見千代子, 他. 兵庫県立成人病センター紀要. 7: 69-72, 1992
  23. 蒔田益次郎, 他. 乳癌の臨床. 6(2): 210-215, 1991

(2025年5月更新)