ラナマンモカード CEA®(乳頭分泌液中CEA測定キット) Q&A
乳頭異常分泌とはなんですか?
通常の乳頭分泌は妊娠後期や産褥期に見られる分泌です。この生理的な乳頭分泌は両側性で、多数の乳管より分泌されます。また、自然に分泌されることは少なく吸引あるいは圧迫により分泌されます。
一方、病的な乳頭分泌は乳頭異常分泌と呼ばれ日常診療ではしばしば遭遇する症候です。乳頭異常分泌には乳腺の器質的変化を伴うものと伴わない機能的なものに大別されます。乳管上皮の病的状態に由来する乳頭分泌は、多くは片側性で乳頭に開口する一本の乳管より分泌されることが多く、血液を含むいわゆる血性乳頭異常分泌です。乳癌でもいまだ腫瘍を触知しない時期では、乳頭異常分泌が唯一の手がかりとなることがあるので重要な症状です1)。
乳頭異常分泌の頻度は?
乳頭異常分泌の原因は?
乳頭異常分泌の原因としては乳腺の器質的変化の有無により2つに大別されます4)。乳腺の器質的変化を伴う場合には、乳癌との鑑別が重要になります。
表 乳頭異常分泌の原因4)
1.乳腺の器質的変化を伴うもの
(1)乳腺症
(2)乳管内乳頭腫
(3)慢性乳腺炎(乳管拡張症)
(4)乳癌
(5)その他の乳腺疾患
2.乳腺の器質的変化を伴わないもの
(1)内分泌環境の異常またはアンバランスによるもの
脳下垂体腫瘍, 松果体腫瘍, Cushing氏病, 甲状腺機能亢進症及び低下症, 卵巣腫瘍, 不妊手術後, 無月経-乳汁分泌症候群(Chiari-Frommel症候群, Forbes-Albright症候群, Argonz del Castillo症候群), 内分泌関連臓器に対する手術後, 新生児の奇乳や血性分泌, 処女の乳汁分泌や血性分泌, 代謝性月経など.
(2)薬剤によるもの
Phenolthiazine誘導体, Reserpine製剤, 中枢神経作用性消化管機能調整剤, 経口避妊薬, Morphine製剤など.
(3)精神的損傷、精神疾患、外傷、乳腺以外の慢性疾患によるもの
強姦, 想像妊娠, 内因性精神病, 重篤な軟部組織や脳の損傷, 結核, 出血傾向など.
(4)原因不明のもの
乳頭異常分泌を伴う各乳腺疾患の頻度は?
乳頭異常分泌を伴う乳癌の特徴は?
乳頭異常分泌と年齢との関係は?
乳頭異常分泌の部位は?
乳頭異常分泌と"しこり"との関係は?
乳頭異常分泌例のうち、しこりを触知しない症例(無腫瘤例)は6~8割3) - 7)で、しこりを触知する症例(有腫瘤例)よりもその比率が高いことがこれまでに報告されています。
乳頭異常分泌液の肉眼性状は?
乳頭異常分泌液の肉眼性状としては、以下のようなものがみられます。
肉眼的性状 | 頻度 | 乳腺疾患との関連 |
---|---|---|
血 性![]() |
若年者から高齢者まで幅広くみられるが、年齢が高くなるにつれて頻度が高くなり、60歳以上では高率にみられる。血性分泌が全体の半数近くを占めるという報告が多い。 | 乳癌、乳管内乳頭腫、乳腺症の頻度が高率。 |
漿液性
(淡黄色)![]() |
若年者から高齢者まで幅広くみられる。 | ときに乳癌が発見されることがある。 |
乳汁様![]() |
通常は出産可能年齢にみられ、加齢と共に頻度は低下する。また60歳以上での頻度は低い。 | 乳癌の頻度は低い。 |
水 様(透明)![]() |
若年者から高齢者まで幅広くみられるが頻度は低い。 | 乳癌の頻度は比較的高率。 |
膿 性 | 感染によって起きる場合も多い。ただ頻度は低い。 一般には出産可能年齢に多くみられる。 |
まれに乳癌の場合もある。 |
( 横スクロールできます)
血性分泌は最も乳癌のリスクが高く、14~56%の高頻度で乳癌が存在することが報告2)されています。
乳頭異常分泌の診断方法は?
乳頭異常分泌の診断方法は、問診、視・触診から始まり、マンモグラフィや超音波検査に加えて、分泌液及び分泌乳管に対する診断が加わります(表)7)。
表:乳頭異常分泌の診断方法
1.問診、視・触診 | |
2.マンモグラフィ、超音波検査 | |
3.分泌液を用いた診断 | (1) 分泌液の性状(潜血反応) |
(2) 分泌液の細胞診 | |
(3) 分泌液中のCEA測定 | |
4.乳管を用いた診断 | (1) 乳管造影 |
(2) 乳管内視鏡 | |
5.生検(microdochectomy) |
分泌液の性状(潜血反応)
分泌液の性状で重要なのは分泌液中に血液が混じっているか否かなので、潜血反応の試験を行います。潜血反応が陰性の場合には乳癌の可能性が低いと考えられるので、画像診断で異常所見がなければ経過観察とします。
分泌液の細胞診
乳頭分泌液の細胞診には直接塗抹法、乳管洗浄や蓄乳法がありますが、一般的に採取細胞量が少ないことと、細胞変性が強いことなどによりその陽性率は30~60%とあまり高くありません。
分泌液中のCEA測定
分泌液中CEAの測定は、特に非触知(無腫瘤性)乳癌の診断に有用であり、測定法に関らずT0乳癌の診断能は感度、特異度ともに70~80%と報告されています11)。
乳管造影
分泌乳管内に造影剤を注入後、乳房撮影を行い、造影された乳管の像から病変の部位を知り、原因疾患を診断します。一般には本検査での質的診断は難しいといわれていますが、非触知乳癌の生検の際には必要な術前検査です。
乳管内視鏡
乳管内視鏡は乳管にファイバースコープを挿入し、末梢の乳管まで直接観察が可能です。また検体採取(乳管内生検)も可能です。
生検(乳管区域切除)
分泌乳管内に色素を注入し、染色された乳管・腺葉を切除します。切除標本は病理組織学的検査を行います。
乳頭異常分泌液中のCEA測定の経緯は?
乳頭分泌液中のCEA測定の意義は?
乳頭分泌液中CEA測定の臨床成績は?
これまでの乳頭分泌液中CEA測定法一般の非触知乳癌の診断能は感度、特異度ともに70~80%程度と報告されています(表1)11)。イムノクロマトグラフィー法を用いた「ラナマンモカードCEA」については、感度 68%、特異度 96%と報告されています19)。
表1:乳頭分泌液中CEAによる非触知乳癌診断能
報告者 | 年 | 測定法 | 基準値 (ng/mL) |
症例数* | 感度 (%) |
特異度 (%) |
---|---|---|---|---|---|---|
稲治 | 1987 | 酵素免疫法 | 100 | 30 | 86 | 89 |
森 | 1989 | 酵素免疫法(簡易法) | 400 | 125 | 73 | 91 |
森 | 1992 | 酵素免疫法(簡易法) | 400 | 54 | 76 | 79 |
西口 | 1992 | 酵素免疫法(簡易法) | 400 | 16 | 50 | 75 |
佐々木 | 1993 | 酵素免疫法(簡易法) | 400 | 12 | 100 | 55 |
濱田 | 1994 | 酵素免疫法 | 400 | 25 | 67 | 95 |
弥生 | 1994 | 酵素免疫法 | 600 | 60 | 77 | 100 |
神崎 | 1994 | 酵素免疫法 ラテックス比濁法 |
200 | 76 | 71 | 92 |
西19) | 2003 | イムノクロマトグラフィー法 | 400 | 47 | 68 | 96 |
( 横スクロールできます)
*いずれも組織診の得られた症例のみ
乳頭異常分泌症例に対する診断における乳頭分泌液中CEA測定の位置付けは?
乳頭分泌液中のCEAの測定は、以下の図のように乳頭異常分泌症例の診断手順の中で用いられています7)。
図: 無腫瘤性乳頭異常分泌診断のフローチャート

乳頭分泌液中のCEA値と組織型には関連がありますか?
乳頭分泌液中CEA測定に伴う偽陽性、偽陰性はありますか?
乳腺穿刺液や嚢胞内液中のCEA測定には意義がありますか?
出典
- 松田実. 臨床病理(臨時増刊号).64: 35-58, 1985
- 園尾博司, 他. 外科. 49(5): 450-456, 1987
- 弥生恵司, 他. 乳癌の臨床. 3(1):141-146, 1988
- 難波清, 他. 外科治療. 61(2): 131-140, 1989
- 黒井克昌, 他. 広島医学. 49(11): 1364-1368, 1996
- 松永忠東, 他. 日本乳癌検診学会誌. 11(3): 281-288, 2002
- 弥生恵司, 他. 日本臨床. 58(増刊): 38-42, 2000
- 泉雄勝, 他. 外科治療. 21(2): 155-162, 1969
- 山本泰久, 他. 外科診療. 16(11): 1302-1311, 1974
- Murad TM. et al. Ann.Surg. 195(3): 259-264, 1982
- 稲治英生, 他. 臨床検査. 39(12): 1267-1271, 1995
- 稲治英生, 他. 医学のあゆみ. 134(8): 575-576, 1985
- Inaji H. et al. Cancer. 60(12): 3008-3013, 1987
- 森武貞, 他. 乳癌の臨床. 4(1): 99-103, 1989
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- 中村祐子. 東京医科大学雑誌. 57(4): 385-397, 1999
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- 清見千代子, 他. 兵庫県立成人病センター紀要. 7: 69-72, 1992
- 蒔田益次郎, 他. 乳癌の臨床. 6(2): 210-215, 1991
(2025年5月更新)