1,5AG(血糖コントロールマーカー) Q&A

1,5AGとは何ですか?

1,5-アンヒドロ-D-グルシトール(1,5AG)はグルコースの1位の水酸基が還元された構造をもつポリオールで、ヒト体内に存在することはPitkänenにより1973年に報告されました1)。1,5AGは糖尿病で特異的に低値を示します。1,5AGは高血糖に伴う尿糖排泄を反映して変動し、より短期間の血糖状態を表す糖尿病の血糖コントロール指標です。

体内の1,5AGの由来は?

体内の1,5AGは主に食物に由来しています2)。1,5AGは、ほぼすべての食物中に含まれ2)、穀類には比較的多く含まれており、大豆には特に多く含まれています。通常では1日あたり約5~10mgが恒常的に体内に摂取されています。また1,5AGの生合成量は約0.5mg/日程度と推測されています。肝臓のグリコーゲンから1,5-アンヒドロフルクトースを経て1,5AGに至る脱離分解経路の存在3)も報告されていますが、生合成系は明らかになっていません。

1,5AGの体内分布は?

1,5AGは主に食物中より1日あたり約5~10mgがほぼ恒常的に摂取され2)、腸で速やかに吸収された後、体内全組織に分配され4)、腎の1,5AG排泄閾値に従って濃度平衡に達します5)。便には痕跡程度しか含まれません。ヒト体内に保持される1,5AG総量は約500~1000mgで、ほとんどが非結合とみられています2)。1,5AGの集積臓器は知られていません。

生体内での1,5AGの代謝系は?

1,5AGの代謝系そのものは明らかになっていません。1,5AGはその構造上きわめて安定であり、動物体内では一部が可逆的にリン酸化される以外は代謝学的にきわめて安定であることが報告されています4)。また1,5AGの生体膜透過性はラット肝癌由来細胞H-356)、白血病細胞K-5627)や多形核白血球8)で検討されており、1,5AG独自の輸送体を介して取り込まれていることが報告されています。

1,5AGの生理的意義は?

1,5AGの生理的意義は判明していません。マクロのレベルでは、ラット脳室内への1,5AG投与により摂食が抑制されることが報告されています9)

健常人の血中1,5AG値の分布は?

健常人の血中1,5AG値は7~50μg/mLにわたり幅広く分布し、平均で約25μg/mL存在します10)。通常同一正常人での日差及び日内変動はみられません11)

1,5AG値に性差はありますか?

健常人の血中1,5AG値は、女性が男性に比べてやや低値を示す傾向があります10)。また特に20~30代の男性が高値傾向12)にあります。多施設の検討より14μg/mLを正常下限値に設定した場合、糖尿病の診断における感度、特異度には男女間で有意差は認められていません10)。一方、承認申請時の臨床試験では糖尿病患者では性差は認められませんでした。13)

1,5AG値は食事などの影響を受けますか?

1,5AGは主に食物中より1日あたり約5~10mgがほぼ恒常的に摂取され、ほぼ同量が尿中に排泄されていると考えられています2)。また1,5AGの体内保持量は1日摂取量の約100倍の500~1000mgとかなり大きく、代謝がきわめて緩慢であることから、食事の影響はほとんど受けません14)。従って、1,5AGは随時採血検体で評価することができます。

糖尿病で1,5AG値が低値になるメカニズムは?

正常では1,5AGは腎尿細管の1,5AG/マンノース/フルクトース共輸送体によりほぼ99.9%再吸収を受けています15),16)。しかし、高血糖に伴うグルコース排泄(尿糖)により、1,5AGの再吸収がグルコースによって競合阻害を受け、尿中へ排泄される1,5AG量が増加し、血中1,5AG濃度が減少します5),17)。従って、高血糖による尿糖排泄がある糖尿病では血中1,5AG値は低下します14)

なぜ1,5AG値は血糖コントロール指標になるのですか?

1,5AGは高血糖に伴うグルコース排泄(尿糖)により再吸収が競合阻害を受け、尿中へ喪失されるために血中濃度が低下します。血中1,5AG値はグルコース排泄に応じて直ちに減少し、その減少率は尿糖排泄量とよく相関します14)。一方、減少後は血糖コントロールの改善に伴い徐々に血中1,5AG値は増加し、1日あたりの経口摂取量はほぼ一定であるために、血糖正常化でグルコース排泄が全くなくなると、1日あたり平均0.3μg/mLの一定の割合で、その個人の正常値まで回復します14)。従って、1,5AGが低値であったり、下降する傾向にある場合には血糖状態の悪化が、1,5AGが高値または、上昇する傾向にある時には血糖状態が正常化に向かっていることがわかります。

出典

  1. Pitkänen E. et al. Clin.Chim.Acta. 48(2): 159-166, 1973
  2. Yamanouchi T. et al. Am.J.Physiol. 263(2): E268-E273, 1992
  3. Sakuma M. et al. J.Biochem. 123(1): 189-193, 1998
  4. Kametani S. et al. J.Biochem. 102(6): 1599-1607, 1987
  5. Yamanouchi T. et al. Am.J.Physiol. 258(3): E423-E427, 1990
  6. Suzuki M. et al. J.Biochem. 104(6): 956-959, 1988
  7. Yamanouchi T. et al. J.Biol.Chem. 269(13): 9664-9668, 1994
  8. Okuno Y. et al. J.Biochem. 111(1): 99-102, 1992
  9. Fujimoto K. et al. Proc.Soc.Exp.Biol.Med. 178(4): 515-522, 1985
  10. 山内俊一, 他. 糖尿病. 33(1): 41-48, 1990
  11. Yamanouchi T. et al. Diabetes. 36(6): 709-715, 1987
  12. Yamanouchi T. et al. Diabetologia. 31(1): 41-45, 1988
  13. 承認時評価資料:国内臨床試験
  14. Yamanouchi T. et al. Diabetes. 38(6): 723-729, 1989
  15. 山内俊一. 他. 日本臨牀. 48(増刊): 374-380, 1990
  16. Yamanouchi T. et al. Biochim.Biophys.Acta. 1291(1): 89-95, 1996
  17. Yamanouchi T. et al. Diabetes. 35(2): 204-209, 1986

(2025年5月更新)